セカンドオピニオン 1st (PICU78日目)
セカンドオピニオン
2018/03/13(火) テイクダウン後84日目
気持ちよく晴れて暖かい日だった。わたしと夫はいつもと違う病院の広大な敷地の片隅に立っていた。
この日はセカンドオピニオンに来た。
セカンドオピニオンとは、患者さんが納得のいく治療法を選択することができるように、治療の進行状況、次の段階の治療選択などについて、現在診療を受けている担当医とは別に、違う医療機関の医師に「第2の意見」を求めることです。セカンドオピニオンは、担当医を替えたり、転院したり、治療を受けたりすることだと思っている方もいらっしゃいますが、そうではありません。まず、ほかの医師に意見を聞くことがセカンドオピニオンです。
セカンドオピニオンとは 東京都福祉保健局より引用
(強調は引用者)
☆ ☆ ☆
前々から準備をしていたセカンドオピニオンにやっと行けた。難病児の親御さんにもセカンドオピニオンを検討している方もいるでしょう。
この記事ではセカンドオピニオンを決めた経緯や手続きの流れについてまとめました。自身の備忘録的な意味合いも強く、万人に当てはまるものではないことはご注意ください。
わたしは非医療関係者であり、あいにく内容の正確性は保証できません(今回どうしても記事中の記述について伝聞調が多くなります)。
患児のご家族様は、病状の相談は必ず主治医の先生になさるようお願いします。
なぜ、セカンドオピニオンを受けようと思ったか?
外科主治医から受けた事前のインフォームド・コンセントでは、フォンタン手術の危険性については約1%といわれていた。
フォンタン手術に進む条件として大切なことは、肺動脈の圧が十分に低く、心室の動きが良く、三尖弁の逆流が少ないことであり、体重の目安としては10kgくらい。
術前のはる君の体重は9kgに満たなかったが、今回フォンタン手術を検討することになったのは、肺動静脈瘻(はいどうじょうみゃくろう)を合併したからだ。
フォンタン手術にすると肝臓を通した血液が肺に流れるようになり、肺動静脈瘻の改善が促される可能性があるという。
www.calmin.org
上記の詳細についてはこの記事で書いた
循環器小児科チームによるカンファレンス(会議)の結果、はる君は開窓ありのフォンタン手術に臨んだが、12/13日にフォンタン手術、その後循環不成立と判断され12/19日にグレン循環にテイクダウン・同時に右室-肺動脈へのシャント(短絡)手術を受けた。
www.calmin.org
その後、感染による容態の悪化、長期に渡る人工呼吸器の使用、全身の浮腫、肝肥大、胸水が止まらずドレーンを数日おきに抜き差ししたこと、胸水の原因の確定ができていないこと……など数々の要素が重なりあい、先の見通しが立たない状態に陥った(この頃、主治医のシマノ先生(仮)は「肺血流が多すぎる可能性がある、体血流を増やすと改善するかもしれない」と推定していた。後述するが、先生の判断は正しかった)。
ここではる君のお友達のことについて触れないわけにはいかない。とても大切に思っていたお友達の死がわたし達の背中を押した。いつか言葉にできるときが来たら、お友達の話をするかもしれない。でもいまはその時ではない。
- 今回開窓フォンタン手術を行ったことは妥当か
- 血が混じった胸水の量が減らない原因を知りたい
- 現状の治療についての意見
- 今後の展望についての助言がほしい
これらについて夫婦で話し合い、セカンドオピニオンをとることに決めた。
実際の流れ
今回は二ヶ所の施設にセカンドオピニオンの申込みをしたが、どちらも「セカンドオピニオン外来」を掲げている病院だった。ちなみに、はる君の病院にも「セカンドオピニオン外来」がある。
- 主治医にセカンドオピニオンに行きたい旨を伝える
- 先方の病院へ連絡をする
- 病院の情報連携室経由
- 患者側から先方の病院に直接コンタクトをとる
- 主治医に診療情報提供書を作成してもらう
- セカンドオピニオンの手続き用紙が送付されてくる(またはwebからダウンロードする)
- 先方の病院に診療情報を送る(または当日持参する)
- 当日、直接病院に行ってセカンドオピニオンを受ける
セカンドオピニオンの内容についてのレポート
わたし達が意見をいただいたのは、A病院の循環器小児科で責任のある立場におられる経験豊富な先生だった。やさしく明解に教えてくれた。
疾患の説明
まずは左心低形成症候群という疾患について、図を描きながら説明を受けた。あたりまえかもしれないけど、先生が迷いのない線でサラサラと心臓の絵を描くのに驚いた。
僧帽弁の重度狭窄、心房中隔欠損、低形成左室、低形成大動脈弓……
これまでの治療と手術は左心低形成症候群の標準的な治療で、妥当なものと言われた。
(両肺動脈絞扼術、ノーウッド手術、両方向性グレン手術→開窓フォンタン手術)
それから、肺の仕組みについての説明もあった。心臓と肺は非常に密接なつながりがあるからだ。
肺は気道と血管と接している肺胞でガス交換を行う器官だ。肺胞の表面には毛細血管がはりめぐらされている。静脈の隣にはリンパ管が沿うようにはっている。
心臓は全身の循環を司る
心臓、肺、肝臓、腎臓はたがいに深くかかわりあっている。心臓手術を行うと術後だれでも一時的に心不全状態になる。尿が減少、肺と肝臓がうっ血し、水が全身に溜まることでさらに心不全が進行するスパイラルに陥るため、薬剤などで負のスパイラルを断ち切る治療を行う。
逆に肝臓の障害によって酸素飽和度が下がる肝肺症候群や、肺動静脈瘻など、心臓手術に対してリスクが高くなるような病気もある。
フォンタン手術とは
わたし達がわかっているつもりでわかっていなかったのが、フォンタン手術とは血行動態を正常にするのではなく、チアノーゼをなくすための手術だということだ。
フォンタン手術は機能的根治術と呼ばれているため、心のどこかでフォンタン手術をゴールのようにとらえていたことに気づかされた。最終手術というわけではないのだ。
フォンタン循環になると、体を通って酸素が少なくなった血液(静脈血)が心臓を通らずに直接肺に流れることになる。
勢いのない静脈血がダラダラと静脈を流れることによって、静脈の圧力が高まる。
リンパ管は静脈の隣にあるから、パンパンの静脈に押される形でリンパ管も押されてしまう。結果、水分が溜まりむくみやすくなる。
フォンタン手術はチアノーゼをなくす手術とは言え、術後の平均酸素飽和度は95%程度に落ち着くことが多いらしい。
開窓フォンタン(フェネストレーション付きフォンタン、穴開きフォンタンとも)の場合は85%くらいになる。
この施設では、左心低形成症候群の子は全例開窓フォンタンにする方針だそうだ。
肺の問題について
右肺はフォンタン手術前に判明した肺動静脈瘻、左肺はテイクダウン後に細かい血栓が飛んだことによって機能が低下し、さらに出血と胸水の貯留によって無気肺になっている。
肺動静脈瘻については前述のとおり、フォンタン循環にすることで肝臓からの血液を流せば改善が見込めるそうだ。
何年も経過してしまい肺の血管が固くなってしまうと改善は難しくなるが、まだ柔らかい今のうちなら期待できる。
胸水が止まらないということについては、なかなかこれといった対応は難しいらしい。個人差が大きく、人によっては術後1~2か月胸水が出続けることも稀ではないとのことだ。
フォンタン手術後は、血行動態のせいで胸水が非常にでやすい状態になってしまう。
- 利尿剤で尿として水分を排泄するのをうながす
- サンドスタチンの投与(リンパ管の水を減らす)
- フィブリノゲンの投与(血を固める成分?)
- 末梢血管の拡張
- ステロイドの投与
……など、トライ・アンド・エラーをしながら効果の高い治療方法を探すということも一般的に行われているみたい。
サンドスタチンだけはちょっと忘れてしまったが、その他の処置は現在はる君が受けている治療と同じだった。やはり、治療方針としては妥当なんだね。
なお、強制的に胸水をとめる方法もあるが、おすすめはできないと言われた。
(抗がん剤などを使ってムリヤリ癒着させる、リンパ管と静脈を吻合する、など。この施設ではあまり行わない処置のようだ)
肺という臓器について
新しい知見のひとつが、肺は比較的余裕のある臓器(?)だということだった。肺の機能の3/4以上が失われても、生きていくことはできるなんて。
体の成長とともに肺も成長すれば、運良く片肺でもフォンタン可能なケースもあるという。
フォンタン手術のリスクファクター
いろいろあるが、実は左心低形成症候群という疾患そのものがフォンタン手術に対する危険因子だといわれてびっくりした(だから全例開窓型なんだね)。
他の単心室群と比較すると、わずかに左心低形成症候群の治療成績が悪い傾向にあるそうだ。
フォンタン手術がすべてではない
今回のセカンドオピニオンでいちばん良かったのは「フォンタン手術がすべてではない」と言われたことだった。
現状の最終形はフォンタン手術だが、当分は再手術には慎重になるだろうと言われ、納得した。
テイクダウン後の状態が安定しているなら、早くやる意味はないと言い切ってくれたので安心した。
発達の著しい遅れがある場合にもフォンタン手術を勧めないことがある。なぜなら、歩行ができない子は血栓ができやすくなるからだ。
最近では1~2歳でフォンタン手術を行うケースが多いが、以前の主流は幼児期以降(4~7歳)だった。グレン循環で待機し、青年期にフォンタンに進む方もいる。
全体的な感想
セカンドオピニオンを受けて何か考え方に変化はあったか?
あった。
まず、現在の主治医の先生と病院に対しての信頼がより高まった。普段は忙しくされているかもしれない、と思って主治医には遠慮して聞けないようなことをズバズバ聞くことができた。
素人なりに心臓のことを学んでから伺えたことで、病気にたいしての知識もすこしは深まったと思う。
もし治療方針で別の意見があったとしても、主治医に治療の提案もできるだろうからそれはそれで良い。
今回、セカンドの申込をしてから実際に予約が取れるまでには時間があったため、すでにはる君の病状は軽快しつつある状況だったが、タイムラグもあるので悪化してからでは余裕もなかったかもしれない。
主治医のシマノ先生(仮名)は快諾してくださったので、それまでどう切り出そうかすごく悶々としていたので拍子抜けしたくらいだった。
良い病院ほどセカンドに前向きだというのはこういうことなのか……。
何か事前に用意したか?
この病院では専用のヒアリングシートがあり、そこに聞きたいことを細かく書いたものを事前に郵送していた。
セカンドオピニオンを受けるにあたっては、どういった助言を求めているのか明確にする必要がある(重要)。
なんとなく不安だ、主治医があまり信頼できない、という理由でセカンドオピニオンを受けても意味がない。
そもそもセカンドオピニオンは主治医に対して不満がある場合や医療訴訟目的で利用することはできない。そういうものではない。
費用は?
全額自己負担となるため、数万円だった。決して安くはないが、このタイミングを逃して後悔したくはないので、価値はあったと思う。
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すさまじく冗長になってしまいましたので、あとで記事を分割するかもしれません。先週の出来事なので早く記事にしようと思いながらボリュームがうまく削れませんでした。