夜明けの心臓

最重度の心臓病の一つである左心低形成症候群の息子の記録。手術・入院・通院の事や病気の情報など。あと雑記。

退院時病状説明

 おひさしぶりです、はる君は元気です!退院時に主治医から受けた病状説明をまだ記事にしていなかったので、わたしの理解の範囲で書いていきます。
 毎度書いていますが、素人の理解レベルでの記事のため、医療に関する情報の正確性についての保証はいたしかねます。病状についての不明点は必ず主治医にご相談ください。

これまでのおさらい

 左心低形成症候群の心臓と、はる君がこれまでに受けた手術について振り返る。もうわかっている人は退院時病状説明の項目へジャンプ

先天性心疾患(生まれつきの心臓病)で覚えておきたいポイント
  • 血液が流れないところは成長しない
  • 全身の酸素飽和度が低くなるチアノーゼ(体に血が多く流れる)と、心臓に負担がかかってどんどん弱くなる心不全(肺に血が多く流れる)はある程度はトレードオフの関係である
  • 肺高血圧は一般的に言う「高血圧」とは違う
    • 体への血管の抵抗が強い=高血圧、肺への血管の抵抗が強い=肺高血圧(圧力が高い≒抵抗が強い)
  • 人工物(人工血管、人工弁)には血栓がつきやすい
    • 体内の組織は長い時間をかけて人工物を完全に覆う

左心低形成症候群

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左心低形成症候群(HLHS)
 僧帽弁(左心房と左心室の間の弁。肺できれいになった血液を全身に送り出す役割)が重度狭窄か閉鎖しているため、左心系(心臓→体を担う役割)に血液がうまく流れず、左心室や上行大動脈などが低形成になる。
 胎児のときだけにある動脈管(大動脈と肺動脈をつなぐ血管)と、右心房と左心房の間の穴(卵円孔、または心房中隔欠損)が生存に必要だが、出生後に閉鎖してしまう器官のため、閉鎖までの時間を稼ぐ。
 左心低形成症候群の子が生きていくには心臓手術が必要となる。

両肺動脈絞扼術

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両肺動脈絞扼術(赤い部分がテープで絞ったところ)
 心臓→肺へ行く血管(肺動脈)にテープをかけて狭くすることで肺への血流を減らす。この手術は必要ない子もいる。はる君は生後一週間で受けた。
 心臓の負担を軽くして、ノーウッド手術(またはノーウッド+両方向性グレンを両方行うハイブリッド手術)まで待機するために行う。

ノーウッド手術(+右室-肺動脈導管)

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ノーウッド手術(点線は縫い合わせた部分、実線は右室肺動脈導管)
 心臓からは、体へ行く大動脈と肺へ行く肺動脈の二本の太い血管が流れているが、この二本を縫い合わせて一本の大動脈にする。合わせて、心臓から肺への血流路を作る

2016/05/24 - 夜明け前の心臓(仮)
ノルウッド手術、第一段階を終える。 - 夜明け前の心臓(仮)
ノーウッド手術後 - 夜明け前の心臓(仮)

両方向性グレン手術

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赤い破線が縫い合わせた部分、青い部分は再手術で調整した部分
 上半身から戻ってきた血液(酸素の少ない血液)を、心臓を通さずに肺に流す手術。
 右室肺動脈導管(青い部分)は心臓→肺動脈への血流を担っている。
 グレン手術の際に閉鎖するケースもあるが、はる君の場合はグレン手術の翌日に血流量を調節するために再度手術をした。
グレン手術 - 夜明け前の心臓(仮)
 はる君が産まれてからほんの4ヶ月の間に3回(+再手術)もしていた。緊張と不安がつきまとう中、黙々とブログ更新していた過去のわたし、えらいぞ。

フェネストレーション付きフォンタン手術

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赤い実線が人工血管、心房との間に穴が開いている
 使える心室がひとつしかない場合に、チアノーゼをなくすために行う機能的修復術。
 上半身からの血液が直接肺に行く両方向性グレン手術後の状態 + 下半身からの血管を人工血管で延長して肺へつなげるのがフォンタン手術だ。
 フェネストレーション(Fenestration)とは穴のこと。開窓フォンタン、穴開きフォンタンとも呼ぶ。
 はる君には肺動静脈瘻と側副血行路があり、通常のフォンタン手術は適応にならなかった。
カテーテル検査の結果 - 夜明け前の心臓(仮)
 ↑詳細はこちらの記事に書いた。

 体重などは目標としていた10kgを下回っていたが、それでもフォンタン手術を行うことにしたのは肺動静脈瘻の改善を狙ってのものだった。

退院時病状説明

 はる君はフォンタン手術のあと、グレン手術のあとの状態に戻す(=テイクダウン)手術を受けた。
フォンタン・テイクダウン - 夜明け前の心臓(仮)

フォンタン手術

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フェネストレーション付きフォンタン手術(青い部分は人工血管)
 一番の要因は、人工血管に血栓ができたことだった。術後2日目にしてフェネストレーションが塞がってしまい(実は塞がってはいなかったが)、肺へ行く血流に肺が耐えきれなくなった。
 細かい血栓は肺に飛び、肺がうまく酸素を取り込めなくなったので酸素飽和度が下がった。
 大量の胸水が出続け、テイクダウン手術前日は1400MLもの量に達した。はる君の体重は8.5kgくらいだから、体重の1/6くらいの水分が出ていたことになる。素人ながら循環が成立していないと、はっきり理解した。

フォンタンテイクダウン手術

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フォンタンテイクダウン + 右室肺動脈導管
 肺動静脈瘻の改善を狙ってフォンタン手術を行ったため、ただ単にもとの両方向性グレン手術の心臓に戻すだけではなく、心室から肺へのルートを新しくつけることになった。
 当初は肝臓→肺動脈へのルートをつけるという話もでていたが、拍動性がないから心室からじゃないとうまく流れないのかも。
 ノーウッド手術をした際にも右室肺動脈導管(RV-PA conduct)をつけたので、そのときに開けた穴を利用したそうだ。
 とても大事なことを言い忘れていたが、ノーウッド手術の時の右室肺動脈導管は血流がなくなって自然に閉鎖した。

 テイクダウン手術後、容態は安定せず、人工呼吸器管理からなかなか脱することができなかった。一時は敗血症により危険な状態に陥ったが、なんとかカムバック。


 今後、また機会があればフォンタン手術に挑戦するだろう。医学の進歩はすさまじい。再生医療分野も活発なので、はる君が大人になるころには万能細胞で作った大血管の移植も実用化されているかもしれない。
 グレン循環のまま成人し、社会人として働いている方もいる。フォンタンテイクダウン後に再度トライしてフォンタン手術を無事に終えた方もいる。

 わたしがこうしてはる君の病状や近況をブログにつづることも意味はあるのだ。遠くに住んでいて会ったことはなくても、互いに認識し励まし合う関係の方もいる。病児の親ではなくとも、ただひたすらはる君を応援してくれている方もいる。本当に本当に心から感謝している。


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 ようやく落ち着いてきたので、またぼちぼちブログを再開していきます。
 夜明けはきっといつか来るから、また日は昇るから。